Brand Design lab.
ブランドデザイン研究所
ハーゲンダッツ:存在しない国の言葉を作った会社が、日本で「ご褒美」になった理由
Type Something
2026/7/22
こんにちは、スタジオグラムです。
「ハーゲンダッツ」という名前を、デンマーク語だと思っている方は少なくないかもしれません。
実はこの名前、どこの国の言葉でもない、完全な造語です。
創業者がコペンハーゲンの「ハーゲン」に、響きの良い「ダッツ」を組み合わせて作り出したものでした。
存在しない言葉から始まったこのブランドが、なぜ日本で「ご褒美」という特別な地位を築いたのか。
今日はその読み解きを通じて、ブランドが知らない土地でどう根を張るのかを、一緒に考えていきたいと思います。

ハーゲンダッツとは?
ハーゲンダッツは、ポーランドから米国へ渡ったユダヤ人移民、ルーベン・マッタスとその妻ローズ・マッタスが、1960年にニューヨーク・ブロンクスで創業したアイスクリームブランドです。
マッタスは、デンマークが酪農と高品質な乳製品で知られていること、そして第二次世界大戦中にデンマークの人々がユダヤ人を救った歴史への敬意から、デンマークを思わせる響きの名前を考案しました。
実際にはデンマークと経営上の関係はなく、「ハーゲンダッツ」は世界のどの言語にも存在しない言葉です。
日本には1984年に進出し、コンビニやスーパーの冷凍ケースで誰もが目にする存在になりました。
ブランドデザインの視点で読み解く
視点1:「誰でもない国」を想像させることで生まれた、プレミアムというターゲット設計
マッタスが目指したのは、特定の国の物産品として売ることではありませんでした。
「高品質な乳製品の国」という抽象的なイメージそのものを、ブランドの土台にすえるという発想です。
実在する国名を使えば、その国の現実的な事情やイメージに縛られてしまいます。
架空の響きを使うことで、ハーゲンダッツは「ヨーロッパの伝統」を思わせながら、どの国の制約も受けない自由なプレミアムイメージを手に入れました。
この発想は、ターゲット設定の本質を教えてくれます。
ブランドが伝えたい価値は、必ずしも実在する場所や実績に縛られる必要はありません。
私たちもクライアントのブランド設計に携わる中で、「この会社の強みを、最も伝わる形にするには何を借りるべきか」を考える場面が多くあります。
ハーゲンダッツの場合、それは「国名」ではなく「国のイメージ」を借りるという、一歩踏み込んだ選択でした。
視点2:響きそのものをロゴ化した、言葉のデザイン
ハーゲンダッツのブランド名は、視覚的なロゴだけでなく、言葉の響き自体がデザインされています。
「ハーゲン」と「ダッツ」、どちらも日本語にも英語にもない音の並びです。
意味を持たない言葉だからこそ、聞いた人は音の響きだけで「何か特別なもの」という印象を受け取ります。パッケージデザインも、この響きに合わせて控えめで上質な印象に統一されています。
原色を多用した派手さではなく、紺や金を基調とした落ち着いた色使いが、名前の持つ異国情緒と一致しています。
名前の音・ロゴの形・パッケージの色、すべてが一つの世界観を支えていることが、このブランドが長年プレミアムの地位を保てている理由です。
視点3:「グリーンティー」という言葉選びに込められた、ローカライズの覚悟
1996年、ハーゲンダッツは日本発フレーバーとして抹茶のアイスクリームを発売しました。
アイデア出しから商品化まで7年、試作は100回以上を数えたといいます。
ここで興味深いのは、商品名を「抹茶」ではなく「グリーンティー」とカタカナ表記にしたことです。
日本の食材を使いながらも、「アメリカ生まれのブランドである」というイメージを崩さないための、意図的な言葉の選択でした。
これは、ローカライズの本質を物語っています。
完全に現地に合わせれば独自性を失い、頑なに変えなければ現地の心に届きません。
ハーゲンダッツは「中身は日本の味、名前は変わらぬ世界観」というバランスを選びました。
デザインは見た目ではなく、コミュニケーション手段です。
一語の選び方が、ブランドの立ち位置をどう保つかを決定づけた好例だと思います。
なお、グローバルブランドが各国の市場でどう自社らしさを保つかについては、スタジオグラムの公式ブログ「ブランドを読み解く」のニューバランスのブランドデザイン分析もあわせてご覧いただくと、視点の比較として参考になると思います。
視点4:「ご褒美」という言葉が支える、日々の小さな顧客接点
ハーゲンダッツが日本で確立したのは、「自分へのご褒美」というポジションです。
誕生日や記念日のような特別な日のためのスイーツではなく、「今日はちょっと頑張ったから」という、ごく個人的でささやかな理由のために選ばれる存在になりました。
この設計が優れているのは、購買のきっかけを「イベント」ではなく「気分」に置いたことです。
気分は毎日のように訪れます。
コンビニの冷凍ケースという、誰もが日常的に立ち寄る場所に置かれているという接点設計も、この「ご褒美はいつでも手が届く」という体験を後押ししています。
季節限定フレーバーや他ブランドとのコラボレーションも、この「いつものご褒美に、新しい発見を」という体験を絶えず更新する仕掛けになっています。
このブランドから中小企業が学べること
今回の読み解きを通じて、私たちが中小企業の経営者の皆さまに特に伝えたいことが三つあります。
一つ目は、「自社の強みを、最も伝わる形に翻訳する勇気を持つ」ということです。
ハーゲンダッツは「アメリカの会社です」と正直に名乗るのではなく、「高品質な乳製品の国」というイメージを借りる選択をしました。
自社の強みをそのまま説明するのではなく、顧客が最も価値を感じる形に翻訳して伝えることが、ブランドの第一歩になります。
二つ目は、「現地に合わせる部分と、変えない部分を、明確に切り分ける」ということです。
ハーゲンダッツは中身を日本向けに開発しながら、名前の表記は変えませんでした。
新しい市場やお客様に向き合うとき、何を現地に合わせ、何を変えずに守るのかをあらかじめ決めておくことで、ブレないブランドになります。
三つ目は、「購買のきっかけを、特別な日ではなく日々の気分に見つける」ということです。
高単価の商品ほど、特別な日のための贈答品という位置づけに頼りがちです。
しかし、ハーゲンダッツは「今日のご褒美」という日常の気分に寄り添う設計で、購買の頻度を飛躍的に高めました。
あなたの会社の商品やサービスは、特別な日にしか選ばれない存在になっていませんか?
出典
ハーゲンダッツ Wikipedia — https://ja.wikipedia.org/wiki/ハーゲンダッツ
「Why Häagen-Dazs? 食べたくなる7つの理由」(公式・ハーゲンダッツ) — https://www.haagen-dazs.co.jp/brand/special/why-haagen-dazs/
「『ハーゲンダッツ』名前の由来を調べたら意外な事実判明!」(ロケットニュース24) — https://rocketnews24.com/2018/02/08/1017944/
「『ハーゲンダッツ グリーンティー』発売まで7年もかかった理由とは?」(ウォーカープラス) — https://www.walkerplus.com/article/1145838/
「迷われる前に第一想起をとりたい。『ご褒美』であり続けるためにハーゲンダッツが模索する寄り添いかた」(クラシコム) — https://kurashi.com/brandsolution/info/12291
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この記事を書いた人
早野 悠
Hayano Yu

株式会社スタジオグラム 代表取締役
ブランドマネージャー認定協会トレーナー
コミュニケーションノイズを無くし、争いのない社会を目指してブランディングに取り組んでいます。福岡市を拠点に、3ステップでつくるブランディング×マーケティング手法で述べ60社をお手伝いしてきました。
好きな言葉:知足/縁起
好きなこと:国内海外旅行/写真/温泉/散歩
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