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中川政七商店:ビジョンひとつで売上を20倍にした、300年企業のブランド戦略

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ブランドデザイン研究所

中川政七商店:ビジョンひとつで売上を20倍にした、300年企業のブランド戦略

ブランドを読み解く

2026/8/18

こんにちは、スタジオグラムです。

春になると、奈良や京都の工芸品をふと手にとりたくなります。麻の布、土の器、木の匙。そういった手触りのある暮らしの道具が、ここ数年で驚くほど「日常に近いおしゃれ」に変わったと感じたことはないでしょうか。

その流れを静かに、しかし力強くつくってきた企業のひとつが、奈良・東大寺の近くに本店を構える中川政七商店です。創業から300年を超える老舗が、なぜ今もっとも注目されるブランドのひとつであり続けるのか。2025年1月に行われた17年ぶりのロゴリニューアルを起点に、そのブランド戦略を読み解いていきます。

中川政七商店とは?

1716年(享保元年)、奈良で麻織物の「奈良晒(ならざらし)」の商いとして産声を上げた中川政七商店。江戸時代から今日まで、実に300年以上にわたって家業を受け継いできた老舗企業です。現在は奈良晒を起点に、全国800社を超える工場・工房と連携しながら、日本各地の工芸の知恵や素材を活かした生活雑貨を企画・製造・販売しています。

転換点となったのは2002年、13代目として中川淳氏が家業に入ったときです。当時の売上は約12億円で、雑貨部門は赤字を抱えていました。

中川氏は経理・製造管理などの業務フローから見直し、ブランディングに着手。2008年に社長に就任した際、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、ブランドの再定義を本格的にスタートさせました。

結果は数字が示しています。2000年に4億円だった生活雑貨事業の売上は、2024年には80億円を超えるまでに成長。22年間で約20倍という驚くべき数字を実現し、全国60店舗以上を展開する製造小売業へと進化しました。

さらに2009年からは産地の工芸メーカーを支援するコンサルティング事業も立ち上げ、「ものを売る会社」から「工芸業界全体を元気にする会社」へと事業の軸を広げています。

ブランドデザインの視点で読み解く

「誰のためのブランドか」という問いを徹底的に突き詰めた

「工芸品」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。旅先の土産物屋に並ぶ少し近寄りがたいもの、あるいは美術館で鑑賞するようなもの——そういったイメージを持つ方も多いかもしれません。中川政七商店が取り組んだのは、まさにその「工芸品のイメージそのもの」を変えることでした。

ターゲットとして設定したのは、特定の工芸が好きなマニア層ではなく、「普通の暮らしの中で、少しよいものを使いたいと思っている一般の生活者」です。工芸品を「贈り物」や「観光みやげ」という特別な場面から解き放ち、台所に並ぶ日常の道具として再定義したのです。

この転換は、コミュニケーションのあり方を根底から変えました。商品ひとつひとつに産地や素材の物語を添え、工房との関係を可視化し、「これは誰がどこでどうやってつくったものか」を伝え続ける。顧客が商品を選ぶとき、同時にその背景にある「日本の工芸の物語」を受け取れる設計になっています。

私たちスタジオグラムも、クライアントのブランド構築に向き合う中で、「ターゲット設定」の重要性を日々実感しています。「全員に向けてつくったものは、誰にも届かない」という現実があります。

中川政七商店が成し遂げた転換は、「工芸品を売る」から「工芸のある暮らしを提案する」へとコミュニケーションの軸をずらしたことにあります。誰に、どんな言葉で語りかけるのかという問いに真剣に向き合ったことが、20倍という成長の土台を作ったのだと感じています。

ロゴが語るブランドの変化、17年後の「再編集」

2025年1月、中川政七商店は約17年ぶりにロゴマークをリニューアルしました。デザインを担当したのは2008年の旧ロゴと同じ、クリエイティブディレクターの水野学氏(good design company)です。

2008年の旧ロゴは、奈良を象徴する鹿2頭が「七」の文字を囲む構成で、「まるで江戸時代から使われていたようなロゴを」という意図でデザインされました。水野氏は「江戸時代から続く老舗に相応しいマークは何かと試行錯誤を繰り返して制作した」と語っており、歴史的正当性をロゴが体現するという設計思想がありました。

新ロゴでは、アルファベットのブランド名と「SINCE 1716 NARA JAPAN」「日本」「工芸」の文字を加え、海外でも一目で何のブランドかが伝わる設計に進化しています。水野氏は「成長し続ける中川政七商店と日本の工芸を元気にするビジョン、そして300年以上真摯に商いを続けた先人の偉業に敬意を表しながら、世界へ進出し続ける企業に相応しいマークを再編集した」とコメントしています。

ここで注目したいのは、17年という時間を経てもデザイナーを変えなかったという事実です。新しいビジョン(グローバル展開)が生まれたとき、それをデザインで表現する判断を、長年関係を築いてきたクリエイターに委ねました。ロゴリニューアルは「新しいものに全部変える」ではなく、ブランドの歴史を引き継ぎながら次の章へと接続する作業です。

ロゴマーク刷新の最適なタイミングについて以前の記事で触れましたが、「いつ変えるか」と同じくらい重要なのが「誰と変えるか」という問いです。中川政七商店はその両方に、明確な答えを出しています。

「ビジョンと利益は51対49」という経営哲学がブランドアイデンティティになる

13代目・中川淳氏が繰り返し語ってきた言葉があります。「デザインは手段であって、ゴールではない」。

これはスタジオグラムが日々お伝えしていることと重なります。「ブランディングとはデザインを良くすることだ」という誤解を持つ方は、残念ながら少なくありません。しかし中川政七商店の歩みが証明しているのは、まず「誰のために、何のために存在するのか」を言葉にすることが先であり、デザインはその言葉を具現化する手段だということです。

「日本の工芸を元気にする!」というビジョンは、シンプルで力強い一文です。感嘆符(!)が一文字つくだけで、単なる説明ではなく「宣言」の性格を帯びます。このビジョンは顧客に向けたメッセージである以上に、取引先の工房・メーカー、社員、そして産地支援コンサルティングの依頼企業にまで向けて発せられた、会社全体の羅針盤です。

中川氏の言葉として知られる「ビジョンと利益は51対49」というフレーズも示唆に富んでいます。ビジョンがわずかでも利益の判断より上位にあることで、「短期的な利益よりもブランドを守る」という意思決定が可能になります。今回の2025年ロゴリニューアルもまた、「グローバル展開」という新しいビジョンに合わせてブランドの表現を進化させた、この哲学に基づく意思決定の産物です。

店舗・商品・メディアで統一されたブランド体験

中川政七商店のブランド体験を語るとき、店舗を抜きにすることはできません。全国60店舗以上の直営店は、どこに行っても統一されたムードが漂います。

白を基調とした清潔感ある空間に、木や布といった自然素材が適切な密度で配置され、商品が「観賞するためのもの」ではなく「日々の生活道具」として伝わるように陳列されています。観光地に多く出店しているものの、土産物屋らしい喧噪は感じさせません。

SPA(製造小売)モデルを採用しているため、企画・製造から販売・接客まで、一貫してブランドの意図をコントロールできることが強みです。中間流通を省くことで価格も整理され、顧客は「中川政七商店のもの」というブランドそのものを買う体験ができます。

さらに、公式メディア「中川政七商店の読みもの」では、商品の背景にある産地・つくり手の物語を丁寧に発信しています。商品を売るだけでなく、その商品が生まれた文化・文脈を届けることで、顧客がブランドへの愛着を深める仕組みを整えています。2018年から台湾・北京・上海・ソウルでポップアップストアを展開し、海外の顧客接点も着実に広げてきました。

そして2025年のロゴリニューアルは、この海外展開を本格化させるための環境整備でもあります。「まず国内で体験の設計を完成させ、そのモデルを海外に展開する」という順序は、ブランドの輸出において非常に理にかなっています。

このブランドから中小企業が学べること

中川政七商店の歩みから、私たちが最も印象に残ったのは「ビジョンを言葉にすることが、すべての出発点だった」という事実です。13代目が就任した2008年、最初に行ったのはロゴのデザインでも新商品の開発でもなく、「なぜこの会社は存在するのか」を言語化することでした。

「日本の工芸を元気にする!」という一文が生まれたことで、何を作り、どこで売り、誰に届け、どんな言葉で語るのかが、はじめてつながりました。この言葉がなければ、ロゴが美しくなっても、商品が増えても、それぞれがバラバラなままだったはずです。

福岡の中小企業経営者の方と話していると、「ブランディングとは見た目を整えることだ」という認識を持っておられる方に出会うことがあります。中川政七商店の事例が教えてくれるのは、それが逆順であるということです。

ブランドとは、誰のために・何のために存在するかという軸であり、デザインはその軸を可視化する手段です。 軸が定まっていないまま見た目だけを整えても、伝わらないのです。

小さな会社にとって、ビジョンを言語化することのハードルは高く感じられるかもしれません。しかし、従業員10名以下の規模であっても、「自分たちが何のためにここにいるのか」を明確にするだけで、採用・営業・クライアントとのコミュニケーションが驚くほど変わります。事業承継のタイミングや創業周年は、その言葉を生み出す・あるいは刷新するための絶好の機会です。

今回この事例を調べながら、私たちも改めて問い直しました。「私たちスタジオグラムのビジョンは、今も社員全員が口に出せる言葉になっているだろうか」と。

あなたの会社には、社員全員が迷わず口にできるビジョンがありますか?——そこからブランドの話は始まります。

出典

みつける つくる そだてる
お客様に選ばれ、愛され続けるブランドづくりの方程式。

・ブランドって何?

・マーケティングとどう違うの?

・デザイン会社って何をしてくれるの?

・お客様に選ばれるために何すればいいの?

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この記事を書いた人

早野 悠

Hayano Yu

株式会社スタジオグラム 代表取締役
ブランドマネージャー認定協会トレーナー

コミュニケーションノイズを無くし、争いのない社会を目指してブランディングに取り組んでいます。福岡市を拠点に、3ステップでつくるブランディング×マーケティング手法で述べ60社をお手伝いしてきました。

好きな言葉:知足/縁起 
好きなこと:国内海外旅行/写真/温泉/散歩

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