Brand Design lab.
ブランドデザイン研究所
ヤンマー:創業100年の老舗メーカーが見せた、ブランド再構築の本質
ブランドを読み解く
2026/8/19
こんにちは、スタジオグラムです。
「古い会社」「農機具の会社」——そんなイメージを持たれていた老舗メーカーが、創業100周年を機に全社的なリブランディングに踏み切りました。
今回取り上げるのは、1912年創業のヤンマーホールディングス株式会社です。
ロゴを変え、製品デザインを変え、空間を変え、そして「自分たちが何者か」という問いそのものを問い直したこのプロジェクトを、ブランドデザインの視点で読み解いていきます。
調べていく中で、私たちにとっても多くの学びがありました。

ヤンマーとは?
ヤンマーは1912年、山岡孫吉によって大阪で創業されました。
世界で初めて小型ディーゼルエンジンの実用化に成功した技術力の高いメーカーであり、農業機械・建設機械・舶用エンジンなどを手掛ける総合機械メーカーです。
日本国内では長らく「農家が使う機械の会社」というイメージが定着していましたが、実際には世界100カ国以上でビジネスを展開する国際的なメーカーでもあります。
2013年に創業100周年を迎えたことを契機に、次の100年を見据えた大規模なリブランディングプロジェクトを発動しました。
クリエイティブディレクターに佐藤可士和氏、工業デザインに奥山清行氏を迎えた、
国内製造業のリブランディング事例としても非常に注目度の高いプロジェクトです。
ブランドデザインの視点で読み解く
誰に向けたブランドか
ヤンマーがリブランディングで最初に向き合ったのは、「誰に届けるブランドか」という問いでした。
国内の農家だけでなく、世界中の顧客、そして将来の農業や食料・エネルギー問題に関心を持つ若い世代にも届くブランドを目指したのです。
これは、私たちが日々のブランド支援業務で感じていることとも重なります。
「今の顧客だけを見てブランドを設計すると、将来の顧客を取りこぼす」という現実です。
ヤンマーは既存の顧客基盤を持ちながらも、次の100年を担う顧客層に向けてブランドの設計図を書き直した。
それは非常に勇気のある判断でした。
ターゲットを「現在の農家」だけに絞るのではなく、「食料・エネルギー問題に関心を持つすべての人」へと広げたことで、
ブランドは「製品を売る会社」から「社会課題を解決する会社」へと再定義されました。
このターゲットの拡張が、その後のすべてのデザイン・コピー・空間設計の土台になっています。
ブランドは誰に届けるかで、すべての表現が変わります。
福岡の中小企業においても、
「今の顧客」だけを見たブランド設計は、長期的には機会損失になり得ます。
ブランドのターゲットを定義し直す際には、まず自社の「ブランドアイデンティティ」を言語化することが重要です。
この点について詳しく解説したブログ記事も、ぜひあわせてご覧ください。
【図解】企業ブランディングの全体相関図をつくってみました。
ロゴ・カラー・タイポグラフィ
ヤンマーの新ロゴ「FLYING-Y」は、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が手掛けました。
「Y」の文字と、社名の由来でもあるオニヤンマの羽をモチーフにしたこのロゴは、鋭角なフォルムで「先進性と技術力」を表現しています。
ロゴに込められたコンセプトは一言で言えば「次の100年へと飛躍する意思」です。
過去の積み重ねを引き継ぎながら、未来への跳躍を象徴するデザインとして設計されました。
カラーは従来の赤を継続使用しながらも、より精緻で都市的なイメージへと洗練されました。
「農機具の赤」から「プレミアムブランドの赤」へのシフトは、同じ色を使いながらも見え方が大きく変わるという、色彩と文脈の関係性をよく示しています。
デザインにおいては「何を使うか」だけでなく、「どう使うか」が意味を決めるのです。
タイポグラフィも含め、ヤンマーのビジュアルアイデンティティ全体は「農家向けの親しみやすさ」から「グローバルプレミアムブランドのシャープな佇まい」へと一変しました。
これは創業者の理念を守りつつも、届ける相手と方法を変えた好例です。
ブランドのビジュアルは「好みの問題」ではありません。
「誰に向けて、何を伝えるか」という戦略の可視化です。
ヤンマーのロゴリニューアルはその最も明快な証拠のひとつと言えるでしょう。
コンセプト・メッセージ・ブランドアイデンティティ
リブランディングにおいてヤンマーが定めたブランドステートメントは
「A SUSTAINABLE FUTURE ─テクノロジーで、新しい豊かさへ。─」です。
創業者・山岡孫吉が掲げた「燃料報国」という理念を現代に再解釈し、
食料とエネルギーという人類の根本課題に取り組む企業姿勢を明確に表明しました。
注目すべきは、このブランドアイデンティティが「何を売っているか」ではなく「なぜ存在するか」を語っていることです。
農機具メーカーが「農機具を売ります」と言うのではなく、
「食料と未来のために技術を届ける」と宣言した。
この本質的な転換が、ヤンマーのリブランディングを単なるロゴ変更と一線を画するものにしています。
私たちがクライアントのブランド構築を支援する際にも、
この「Why(なぜ存在するか)」の言語化が最初のステップです。
ここをしっかりと定義できると、ロゴも、コピーも、スタッフの言動も、
すべてに一貫したブランドの「軸」が生まれます。
ヤンマーはその軸を「創業の精神を現代語訳する」という方法で再構築しました。
長い歴史を持つ会社だからこそできる、最も説得力のある方法論だと言えるでしょう。
顧客接点の設計
ヤンマーのリブランディングが徹底していたのは、ブランドを「体験」として設計した点です。
大阪の新本社ビル「YANMAR FLYING-Y BUILDING」には壁面緑化や農業体験型コンテンツが取り入れられ、東京の「YANMAR TOKYO」ではブランドの世界観を直接感じられるレストランや展示空間が設けられました。
訪れた人が「農業の未来」を体感できる空間として設計されているのです。
製品のデザインも同様です。
工業デザイナーの奥山清行氏を起用したトラクターのコンセプトモデルは、農業機械が「かっこいいもの」になれることを証明しました。
そのインパクトは農家だけでなく、農業に関心を持つ若い世代や都市部の消費者にも届きました。
このトラクターはグッドデザイン金賞も受賞し、「農業のイメージを変える製品」として広く認知されました。
ブランドは「ロゴ」や「キャッチコピー」だけで伝わるものではありません。
顧客がブランドに触れるあらゆる接点(プロダクト、空間、スタッフ、コンテンツ)を一貫したコンセプトで設計することで、初めて「ブランド体験」が生まれます。
ヤンマーはそれを10年以上かけて社内外に浸透させてきました。
リブランディングから約10年後にも「丁寧に確実に伝え続ける」という姿勢を崩していないことは、ブランディングの本質を突いています。
このブランドから中小企業が学べること
今回ヤンマーの事例を調べていく中で、私たちも改めて気づかされたことがあります。
それは「ブランドの刷新は、外側から始まらない」ということです。
ヤンマーが取り組んだのは、まず「自分たちは何者か」「なぜ存在するのか」という
内側の問いへの答えを言語化することでした。
創業者の理念に立ち返り、それを現代の言葉と文脈で再定義した上で、ロゴ・製品・空間・コンテンツへと展開していった。
この順番が重要です。
中小企業がリブランディングに取り組む際、多くの場合は「ロゴを新しくしたい」「ホームページを刷新したい」という外側からのアプローチで始まります。
それ自体は悪いことではありません。
しかし、「なぜ変えるのか」「変えた先にどうなりたいのか」という問いに答えられないまま外側だけを変えると、見た目は新しくなっても伝わるメッセージは変わりません。
ヤンマーは100年の歴史を「重荷」ではなく「財産」として使いました。
創業の精神を掘り起こし、それを現代の課題と接続することで、「老舗」が「未来志向のブランド」に生まれ変わりました。
これは年商規模に関わらず、どんな企業にも応用できる考え方です。
歴史の長い会社ほど、まだ活かしきれていない「創業の精神」が眠っている可能性があります。
あなたの会社には、創業者が大切にしてきた精神や、長年積み上げてきた「こだわり」がありますか?それがブランド再構築の起点になるかもしれません。
皆さんの会社では、どうですか?
出典
ヤンマー Y media「佐藤可士和が語る『次の100年に向けて踏み出した"はじめの一歩"』」— https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/flyingy_sato_kashiwa.html
CBOメディア「ヤンマーホールディングス株式会社」— https://cbo-media.com/2022/05/10/yanmar/
広報会議「リブランディングから10年 ヤンマーが語るメリットとは?」— https://www.sendenkaigi.com/marketing/media/kouhoukaigi/024301/
株式会社フルスロットル「次の100年を見越したブランディング戦略(ヤンマープレミアムブランドプロジェクト)」— https://www.fullthrottle.co.jp/blog/yanmar/
ヤンマー Wikipedia — https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC
monoist「奥山清行デザインのヤンマートラクター「YT3」、グッドデザイン金賞に輝く」— https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1610/31/news042.html
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この記事を書いた人
早野 悠
Hayano Yu

株式会社スタジオグラム 代表取締役
ブランドマネージャー認定協会トレーナー
コミュニケーションノイズを無くし、争いのない社会を目指してブランディングに取り組んでいます。福岡市を拠点に、3ステップでつくるブランディング×マーケティング手法で述べ60社をお手伝いしてきました。
好きな言葉:知足/縁起
好きなこと:国内海外旅行/写真/温泉/散歩
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