Brand Design lab.
ブランドデザイン研究所
サントリー天然水:「水と生きる」哲学が国内清涼飲料No.1を育てた、30年ブランドの本質
Type Something
2026/7/30
こんにちは、スタジオグラムです。
コンビニの冷蔵棚を開けるとき、スーパーで買い物かごに放り込むとき、自動販売機のボタンを押すとき。
そのたびに手が伸びる、青と白のあのパッケージ。
「サントリー天然水」は、日本で最も多くの人が日常的に触れる飲料ブランドのひとつです。
発売は1991年。
当時まだ「水を買う」文化のなかった日本で生まれたこのブランドが、国内清涼飲料7年連続No.1に成長した背景には、デザインの力が深く関わっています。
調べていく中で、私たちにとっても多くの学びがありました。

サントリー天然水とは?
サントリー天然水は1991年、「南アルプスの天然水」という商品名でサントリーが発売したミネラルウォーターです。
「天然水」という言葉自体、地中でミネラルが溶け込んだ地下水を消費者にわかりやすく表現するためにサントリーが作り出した造語でした。
当時は「水と空気はタダ」と言われた時代で、ミネラルウォーターを商品として販売すること自体が大きな挑戦でした。
現在は南アルプス・阿蘇・奥大山・北アルプスの4拠点から採水し、2020年には「サントリー天然水」へと名称を統一しています。
2018年から7年連続で国内清涼飲料のNo.1ブランドとなり、2022年には基幹商品だけで年間1億ケースを突破しました。
同時期、国内のミネラルウォーター市場自体も平成元年(1989年)と比べて約30〜40倍に拡大しており、サントリー天然水はその成長を牽引してきたブランドのひとつです。
親会社サントリーホールディングスは「水と生きる SUNTORY」をコーポレートメッセージに掲げており、「水」はグループ全体の事業の核心に位置づけられています。
ブランドデザインの視点で読み解く
誰に向けたブランドか:「特別な層」ではなく「すべての日常」を選んだ意味
サントリー天然水がターゲットとしたのは、「特定の健康意識の高い人」ではありません。
「日本で暮らすすべての人の、日常の水」です。
この設定がブランドの根幹を形成しています。
発売当初から徹底してきたのは、「とにかく日常の手が届く場所に置く」という戦略です。
コンビニ・スーパー・自動販売機という3大接点を押さえ、どこでも買えるブランドとして市場に存在することで、「今日の水をどれにしよう?」という何気ない選択肢の中に自然に入り込みました。
価格帯も、特別な日のためではなく毎日選んでもらえる水準に設定されています。
私たちが福岡のクライアントとブランドを一緒に考えるとき、「誰に向けたブランドか」という問いは必ず最初に置きます。
この問いへの答えが曖昧なまま見た目のデザインに取りかかると、どんなに美しいパッケージや看板を作っても、誰の心にも刺さらないまま終わります。
日常品において「誰でも」という設定は一見曖昧に見えますが、サントリー天然水の場合は「生活のどの場面に入り込むか」を徹底して明確化することで、具体的な顧客設計を実現しています。
飲料ブランドにおけるパッケージデザインと日常接点の関係性については、私たちのカルピスのブランドデザイン分析でも取り上げています。
日常品ブランドの視覚的アイデンティティには、カテゴリーを越えた共通の哲学があります。
ロゴ・カラー・タイポグラフィ:「守り続ける」という大胆な選択
サントリー天然水のラベルを見ると、青い空を背景に白い雪山が広がっています。
空気遠近法で奥行きが表現された山の風景は、清らかな水源を持つブランドの独自性を視覚的に語っています。
長年このデザインを担当してきたスペシャリスト クリエイティブディレクターの大住裕一氏は、「清冽な水源を持っていて、そこで採集した水を提供できる。これこそが我々の独自性であり、価値だ。ラベルに描いた雪山によって水源を表現している」と語っています。
注目したいのは、30年以上にわたってロゴの核心部分を大きく変えていないという事実です。
「天然水」「サントリー」という文字ロゴのスタイルは、発売以来ほぼ一貫して守られています。
一方で、2024年のパッケージリニューアルでは、ラベル表面に雪や氷を想起させる立体的な模様が加わり、光を受けるとキラキラと輝く質感へと刷新されました。
カラーパレットはそのままに、表情を時代に合わせて更新しています。
2022年には、ラベルを廃したラベルレス専用ボトル「氷と雪の清澄ボトル」も発売しました。
ラベルがなくてもブランドらしさを感じられるフォルムを追求したこのボトルは、「守るものと変えるものを明確に分ける」というブランドマネジメントの哲学を体現しています。
変えてはいけない核心を守り続けるからこそ、表情を変える刷新が受け入れられる。
これは長年積み上げた信頼資産がある老舗ブランドならではの強さです。
コンセプト・メッセージ・ブランドアイデンティティ:「水と生きる」は企業哲学の宣言
サントリーグループのコーポレートメッセージは「水と生きる SUNTORY」です。
2005年、佐治信忠会長が「21世紀に新しい風を」と呼びかけ、社内公募から生まれたこの言葉には3つの思いが込められています。
ひとつは「貴重な水を守り続けること」。
ふたつ目は「文化・社会活動を通じて社会にとっての水のような存在になること」。
そして3つ目は「社員一人ひとりが水のように自在でしなやかに、力強く挑戦できること」です。
この言葉の秀逸な点は、商品の説明ではなく企業の存在理由を語っていることです。
「おいしい水をお届けします」という機能的な説明ではなく、「私たちは水と生きている」という哲学の宣言です。
そしてその宣言は、毎日何億人もの人の手に届く天然水のラベルを通じて、日常の接点に静かに溶け込んでいます。
私たちはデザインをコミュニケーションの手段として捉えています。
コンセプトやメッセージは言葉として語られるだけでは不十分で、見た目・触れ心地・空間・接客といったすべての接点で体現されて初めて意味を持ちます。
2024年のパッケージに刻まれた「国内で汲み上げる地下水量の2倍以上を大自然と育み、いのちに届けます。ずっとずっと水と生きてゆけますように。」という言葉は、まさにブランドアイデンティティをデザインで体現した実践例です。
顧客接点の設計:「飲む場面」ごとに進化するボトルの設計
サントリー天然水の顧客接点設計で最も注目すべきは、「飲む場面ごとにボトルの形を最適化している」点です。
550mlは持ち歩きやすい定番サイズ、2Lは家庭・備蓄向けの大容量。
そして2024年にスリム化された1Lは、「水をたくさん飲みたい」というパーソナル用途の需要に応えて生まれました。
リュックのサイドポケットに収まるスリムな胴径、片手で直接飲みやすい形状。
この1Lリニューアルは消費者インサイトから出発した設計であり、形が変わることで「ライフスタイルの変化に寄り添う」という姿勢を示しています。
リニューアル後の2024年6〜10月の販売数量は前年比150%という結果に結びつきました。
また、2003年から始まった「天然水の森」活動も重要な顧客接点です。
全国16都府県26カ所、12,000ヘクタール以上の水源涵養林を管理し、現地の森づくり活動や工場見学プログラムを通じて消費者との接点を広げています。
「1本の水を買う」という行為が「自然を守る活動に参加する」体験として再定義されることで、商品を超えたブランド体験が生まれています。
CM・公式Webサイト・パッケージのメッセージが一体となって、日常品に深みを与えています。
このブランドから中小企業が学べること
今回サントリー天然水の事例を調べていく中で、私たちも改めて気づかされたことがあります。
それは「守るものを決めなければ、変えることができない」という逆説です。
30年以上ロゴの核心を変えていないサントリー天然水ですが、パッケージの質感・ボトルの形・メッセージの表現は時代に合わせて柔軟に進化し続けています。
変化できるのは、変えてはいけない核心が明確だからです。
会社のビジョン、ブランドの軸、顧客への約束。
これらが曖昧なまま「デザインをリニューアルしたい」と思っても、何を変えれば良いのかわかりません。
もうひとつの学びは、「日常の接点こそがブランドの最大の教室だ」ということです。
広告を打つ前に、すでに毎日お客様の手に渡っているものがあります。
名刺、パッケージ、Webサイト、封筒、レシート袋。
こうした日常の接点が、最も多くの人に届くブランドコミュニケーションの場です。
サントリー天然水は、1本100円前後のペットボトルに「水と生きる」という企業哲学を宿らせ、「取水量の2倍以上を育む」という活動をラベルで語りかけています。
大きな予算がなくても、日常の接点の質を高めることはできます。
3つ目の学びは、「変えない」と「変える」のどちらも意図的に行うということです。
ロゴを守りながら質感を刷新し、名称を統一しながら採水地の多様性を保つ。
この絶妙なバランスこそが、長年にわたって選ばれ続けるブランドの秘訣です。
中小企業においても、「次回のリニューアルで何を守り、何を変えるか」を意識的に決める姿勢が、ブランドを育てていく上で欠かせません。
あなたの会社の商品やサービスが毎日お客様の手に届いているとしたら、そこにはどんなメッセージが込められていますか?
あなたの会社ではどうですか?
出典
サントリー天然水 公式サイト「水源について」— https://www.suntory.co.jp/water/tennensui/source/
サントリー食品インターナショナル「発売30周年!サントリー天然水ブランド新活動方針」— https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1104.html
サントリー食品インターナショナル「サントリー天然水1Lペットボトル容器形状刷新」— https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1481.html
Impress Watch「サントリー天然水パッケージ一新 ウォーターポジティブ強化」— https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1553981.html
日経クロストレンド「番人が明かす『サントリー天然水』パッケージデザインの秘密」— https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00186/00004/
オリコン「サントリー天然水30年で40倍成長の背景」— https://www.oricon.co.jp/special/59679/
サン・アド「コーポレートメッセージ 水と生きる SUNTORY」— https://sun-ad.co.jp/works/suntory/copy/
Sustainable Brands Japan「『水と生きる』は社会への決意」— https://www.sustainablebrands.jp/news/1189424/
食品新聞「サントリー天然水をあえて選ぶ若年層が増加」— https://shokuhin.net/89517/2023/12/16/inryou/inryou-inryou/
東洋経済オンライン「水を買う時代にサントリー天然水が首位の訳」— https://toyokeizai.net/articles/-/700494
アドタイ「7年連続で販売数トップ『サントリー天然水』はなぜ選ばれ続けるのか」— https://www.advertimes.com/20250728/article506501/
みつける つくる そだてる
お客様に選ばれ、愛され続けるブランドづくりの方程式。

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この記事を書いた人
早野 悠
Hayano Yu

株式会社スタジオグラム 代表取締役
ブランドマネージャー認定協会トレーナー
コミュニケーションノイズを無くし、争いのない社会を目指してブランディングに取り組んでいます。福岡市を拠点に、3ステップでつくるブランディング×マーケティング手法で述べ60社をお手伝いしてきました。
好きな言葉:知足/縁起
好きなこと:国内海外旅行/写真/温泉/散歩
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