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湖池屋:「価格競争から降りる」決断が教えてくれる、老舗ブランド再生の本質

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湖池屋:「価格競争から降りる」決断が教えてくれる、老舗ブランド再生の本質

Type Something

2026/8/12

こんにちは、スタジオグラムです。

老舗が苦境に立たされたとき、どんな選択をすべきか。

湖池屋(コイケヤ)は2016年から2017年にかけて、ロゴの刷新と「KOIKEYA PRIDE POTATO」の発売を通じて、価格競争からの脱却という大きな決断を実行しました。

その結果、初年度だけで約40億円の売上を記録し、業界全体の注目を集めるブランドへと生まれ変わりました。

今回はその変化を、ブランドデザインの視点からひも解いていきます。調べていく中で、私たちにとっても多くの学びがありました。

湖池屋とは?

湖池屋は1958年(昭和33年)、長野県諏訪地域出身の小池和夫氏が東京・文京区に設立したスナック菓子メーカーです。

1967年には日本で初めてポテトチップスの量産化に成功し、「のり塩」というフレーバーを生み出した会社でもあります。

社名の「湖池屋」は、創業者の苗字「小池」を「湖池」に変えたもの。故郷の諏訪湖のように、大きな会社に育てたいという願いが込められています。

創業から60年以上にわたって日本の食文化を支えてきた老舗が、2016年に大きな転換点を迎えました。

ブランドデザインの視点で読み解く

ターゲットを根本から問い直した、再定義の決断

2016年以前の湖池屋は、ポテトチップス市場でカルビーと正面から競い合っていました。

価格を下げ、種類を増やし、棚のスペースを奪い合う。そんな消耗戦が続く中、新社長・佐藤章氏が打ち出した方針は明快でした。

「競合を見ることをやめる。まったく違う位置を作る」というものです。

ターゲットを「日常的においしいスナックを楽しみたい生活者全般」から、「食の質にこだわり、本物の味を求める消費者」へとシフトしました。

当時、チョコレートやビール・日本酒の世界ではプレミアム化が進み、少し高くても「本物」を選ぶ消費者が増えていました。湖池屋はその波が、ポテトチップスにも必ず来ると見込んだのです。

私たちがクライアントとブランド戦略を考えるとき、まず問うのは「誰に向けて、何を届けるか」です。

湖池屋の事例は、ターゲットを再定義することが、すべての戦略の起点になることを改めて教えてくれます。

ブランドコアを軸にした商品展開については、無印良品のブランド戦略を読み解いた記事でも詳しく触れています。

ロゴ・カラー・タイポグラフィ:「赤いカ」から「黒い湖」へ

湖池屋のロゴは長年、赤いカタカナ文字で表現されていました。親しみやすく、気軽な印象を与えるデザインです。

しかし2016年のブランドリニューアルでは、ロゴが大きく変わりました。新しいロゴは黒い漢字「湖」を六角形のフォルムに落とし込んだデザインです。

この六角形には意味があります。湖池屋が大切にする六つの価値、すなわち「親しみ・安心・楽しさ」という従来の三つに、「本格・健康・社会貢献」を加えた六つの価値を表現しています。

赤から黒への色の変化は、親しみやすさを保ちながらも、格調と本格感を打ち出す意思表示でした。

フォントや文字組みの視点から見ても、漢字一文字を使ったロゴは日本的な美意識を感じさせます。

カタカナのロゴが「どこにでもある」印象だったとすれば、漢字の「湖」は「ここにしかない」独自性を持ちます。

わずか一文字の変化が、ブランドの立ち位置を大きく変えた好例です。

ロゴが変わることは、単なる見た目の変化ではありません。「自分たちは何者か」を宣言し直す行為なのだと、この事例を通じて改めて実感しました。

コンセプト・メッセージ・ブランドアイデンティティ:「イケイケGOGO!」の本質

リニューアルとともに掲げられたスローガンは「イケイケGOGO!」です。

一見するとポップで軽い言葉に聞こえますが、その背景には三つの方向性が込められています。

「新しいほうへ、イケイケ!」「難しいほうへ、イケイケ!」「面白いほうへ、イケイケ!」というものです。

「難しいほうへ」という言葉が特に示唆深いと感じます。

価格競争という「楽な道」ではなく、プレミアム化という「難しい道」を選んだ湖池屋の覚悟が、スローガンの中に凝縮されています。

経営のメッセージとブランドコアが一致しているとき、組織の力は一点に集中できます。

旗艦商品「KOIKEYA PRIDE POTATO」の商品名もブランドアイデンティティを体現していました。

「PRIDE(誇り)」という言葉には、日本産のじゃがいもと職人的なこだわりへの自信が表れています。

「神のり塩」「薫る燻製仕立て」といった詩的な商品名も、居酒屋のメニューを連想させる高揚感があり、「スナック菓子」という既存の枠を超えようとする意志を感じます。

名前が商品の世界観をつくる。コピーとブランドコアが響き合うとき、消費者の心に残る体験が生まれます。

顧客接点の設計:パッケージが語る「本物」の約束

KOIKEYA PRIDE POTATOのパッケージデザインは、それまでのポテトチップスと一線を画すものでした。

白を基調とした自立する袋(ガゼット袋)は、棚の中で際立ちます。従来品が「ぶら下がる袋」だったのに対し、「立つ袋」というだけで存在感がまったく異なります。

価格設定も戦略的でした。市場が100円前後で価格競争をしている中、PRIDE POTATOは約150円という価格を設定しました。

高い価格そのものが「このポテトチップスは違う」というメッセージになりました。

価格は数字ではなく、ブランドの立ち位置を伝えるコミュニケーション手段です。

発売から1ヶ月で売り切れが続出し、初年度の売上は約40億円。スナック業界では「20億円でヒット」とされる中、その倍の数字を叩き出しました。

同年、グッドデザイン賞も受賞しています。パッケージデザインへの投資が、売上と信頼の両面で回収されたことがわかります。

顧客が商品と最初に出会う瞬間、つまり「手に取った瞬間」にどんな体験をもたらすかは、ブランドの質を左右する重要な問いです。

このブランドから中小企業が学べること

今回、湖池屋の事例を調べていく中で、私たちも改めて気づかされたことがあります。

それは、「競合を見ることをやめる」という決断の難しさと、その先にある可能性についてです。

価格競争に疲弊している中小企業は少なくありません。

「値段を下げなければ選ばれない」「競合が安くしたら自分も下げるしかない」という思考パターンにはまり込んでしまうと、消耗戦から抜け出すことが難しくなります。

湖池屋が教えてくれるのは、「誰のためのブランドか」を問い直すことで、まったく別の市場を作れるということです。

ターゲットを変え、ロゴを変え、パッケージを変え、価格を変えた。しかし変えなかったものもあります。

日本のじゃがいもと丁寧な製法への誇り、そして創業以来の「本物を届けたい」という姿勢です。

ブランドの核心は守りながら、届け方を変えた。それがリニューアルの本質でした。

また、一つの旗艦商品がブランド全体を変えることも、この事例が証明しています。

PRIDE POTATOという一本が、湖池屋というブランドのイメージを塗り替えました。

全製品を一度にリニューアルする必要はありません。「これが私たちの本気だ」と言える一点突破があれば、ブランドは変わり始めます。

あなたの会社にとって、その「一点」は何でしょうか?

出典

みつける つくる そだてる
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この記事を書いた人

早野 悠

Hayano Yu

株式会社スタジオグラム 代表取締役
ブランドマネージャー認定協会トレーナー

コミュニケーションノイズを無くし、争いのない社会を目指してブランディングに取り組んでいます。福岡市を拠点に、3ステップでつくるブランディング×マーケティング手法で述べ60社をお手伝いしてきました。

好きな言葉:知足/縁起 
好きなこと:国内海外旅行/写真/温泉/散歩

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