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治一郎:「ロゴ以外は変えていい」が教えてくれる、核心を守りながら挑戦し続けるブランドの作り方

Brand Design lab.

ブランドデザイン研究所

治一郎:「ロゴ以外は変えていい」が教えてくれる、核心を守りながら挑戦し続けるブランドの作り方

Type Something

2026/7/9

こんにちは、スタジオグラムです。

静岡・浜松から生まれた洋菓子ブランド「治一郎」を、ご存じでしょうか?


シンプルで温かみのある包装紙、職人が丁寧に焼き重ねた24層のバウムクーヘン。

2002年の誕生から20年以上が経った今も、贈り物の定番として愛され続けています。
このブランドには「ロゴ以外は変えていい」という言葉が根付いています。

その一言を知ったとき、私たちはブランドの本質を改めて問われているような
気持ちになりました。
調べていく中で、私たちにとても多くの学びがありました。

治一郎とは?

治一郎は、静岡県浜松市に本社を置く株式会社ヤタローが運営する洋菓子ブランドです。

看板商品「治一郎のバウムクーヘン」は2002年に誕生しました。

当時のバウムクーヘンは、パサパサとした食感のものが多く、飲み物なしには食べにくいと感じる人も少なくありませんでした。

職人たちは「しっとりと、ケーキのようにふんわりとしたバウムクーヘンは作れないか」という問いを立て、100回以上の試作を重ねました。

その職人たちのひたむきなものづくり精神に敬意を表し、当時の職人の一人の名をとって「治一郎」と名付けられました。

ブランド名そのものが、職人への感謝と誇りを宿しているのです。

2008年に静岡県内に第1号店が開業して以来、全国の百貨店やショッピングモールへと展開を続けました。現在では東京駅構内にも出店しており、静岡発の地方ブランドが全国区の存在になった好例です。

ブランドデザインの視点で読み解く

「ていねいな気持ちを渡したい人」に向けたブランド

治一郎が目指しているターゲット像は、「特別な贈り物をしたい人」だけではありません。「日常の中の小さな愉しみを大切にしたい人」に向けたブランドでもあります。

ブランドコンセプトは「ささやかな愉しみと、あたたかな時間」です。

この言葉には、高価な贈り物でなくとも、丁寧に選んだ一品が誰かの時間を豊かにできるという考え方が込められています。

百貨店のギフトコーナーや駅ナカの店舗に出店しているため、誕生日・お中元・お歳暮・帰省のお土産と、さまざまなシーンで自然に選ばれる存在になっています。

私たちが中小企業のブランドを一緒に考えるとき、「誰に向けたブランドか」を言語化することの難しさをよく感じます。「幅広い方に届けたい」という気持ちは自然ですが、
ブランドとして誰かの心に刺さるためには、まず特定の感情に深く語りかける言葉が必要です。

治一郎が「大切な誰かへ、ていねいな気持ちを渡したい」という普遍的な感情に語りかけているからこそ、老若男女を問わず受け入れられているのだと思います。ターゲットを絞ることが、結果として間口を広げるという逆説が、ここにも見られます。

ロゴ・カラー・タイポグラフィが語るもの

治一郎のロゴは、カリグラフィー調の書体に「治一郎」という名前を配したシンプルなものです。

過度な装飾を避け、職人の名を冠するブランドとして、誠実さと温かみを前面に出しています。

カラーパレットはアイボリーや温かみのあるブラウン系を基調としており、

「自然由来の素材」「手仕事の温もり」を視覚的に伝えています。

華やかさより落ち着きを選んだその配色は、
贈り物として「主張しすぎない品のよさ」を演出しています。

パッケージデザインはスカンジナビアンテイストと和テイストを融合させた世界観を持ち、季節ごとに新しいビジュアルで展開されています。
北欧的なシンプルさと日本的な繊細さを掛け合わせたその世界観は、贈る側にも受け取る側にも「選んだことへの誇り」を与えてくれます。

特筆すべきは「ロゴ以外は変えていい」という社内文化です。

パッケージも、ディスプレーも、店舗デザインも、
担当者がどんどん新しいことに挑戦してよいと言われています。

しかしロゴだけは変えない。


これは、ブランドの核心が何かを社内全員が共有しているということを意味します。

私たちは以前、ロゴマークをいつ変えるべきか、変えてはいけないかの判断基準についての記事を書きましたが、治一郎の事例はその答えを体現しています。ロゴとは「変えるもの」ではなく「守るもの」として機能したとき、ブランドの軸になるのです。

コンセプト・メッセージ・ブランドコア

治一郎のブランドコアは「幸せを重ねる」という言葉に集約されています。

バウムクーヘンの「年輪を重ねる」という特性と、人生の積み重ねを、かさねた美しいメタファーです。この一言があるだけで、商品以外の判断にも一貫した軸ができます。

タグラインとして語られる「一歩先の美味しさ」には、単においしいだけでなく、五感すべてを通じて心で感じる美味しさを目指すという意志が込められています。

公式ブランドサイトには「美味しさとは、味覚だけでなく、見た目や香り、感触など、五感のすべてを通じて『心』で感じとるもの」という言葉が記されており、
この哲学が商品開発・パッケージ・店舗・接客のすべてに一貫して反映されています。

もうひとつ印象的なのは、「お客様に変わらない美味しさをお届けするために、治一郎は常に変えていく」というスタンスです。

一見矛盾しているようで、実はとても本質的です。
「変わらない価値を届ける」という目的を守るために、手段を常に刷新していく。この考え方が、20年以上にわたって支持され続けている理由のひとつだと思います。

私たちが中小企業のブランドを支援する際、ブランドアイデンティティを言語化することを大切にしています。「よいお菓子を作ります」ではなく「幸せを重ねる」という言葉を持つことで、店舗の内装から接客の言葉まで、すべての判断に一貫した問いが使えるようになります。どんなに小さな企業でも、言葉で核心を定めることがブランドの出発点になるのです。

顧客接点の設計:五感で届ける体験設計

治一郎の顧客接点の設計は、徹底的に「五感で届ける」という思想で貫かれています。

まず、パッケージ
開封するまでの期待感、包み紙の手触り、箱を開けたときのバウムクーヘンのたたずまい。これらすべてが意図的に設計されています。贈る側も受け取る側も「これを選んでよかった」という感情を持てるように作られているのです。商品の中身だけでなく、「受け取る体験全体」がデザインの対象になっています。

次に、店舗デザイン
東京・エキュート東京店では「New Vintage」というコンセプトのもと、古木を使った内装が施されています。設計を担当した丹青社のデザイナーは「古いものを生かしながら新しいものがつくれればいいとの考えでたどり着いた」と述べています。治一郎は各店舗の立地に合わせたテーラーメイドのデザインを採用しており、どの店舗に行っても均質な体験ではなく、その場所ならではの世界観があります。

そして情報発信
公式ブランドサイトでは商品の製法・素材へのこだわりが丁寧に語られており、購入前から購入後まで、ブランドとの関係が続くように設計されています。「お菓子を買う」という行為を「体験を選ぶ」ことに変える。この視点は、飲食業やサービス業だけでなく、あらゆる業種の中小企業が参考にできるものです。

このブランドから中小企業が学べること

今回、治一郎の事例を調べていく中で、私たちも改めて気づかされたことがあります。それは、「変えないもの」を決めることが、「変え続けること」を可能にするという事実です。

治一郎は「ロゴ以外は変えていい」という言葉で、変えてはいけない核心をひとつだけ守っています。だからこそ、パッケージも店舗も季節ごとに新鮮な挑戦ができます。これは変化の許可を与えているのではなく、変化の範囲を決めることで、組織全体が安心して挑戦できる土台を作っているのです。

中小企業の経営者と話していると、「ブランドを統一したい」という思いと「現場の裁量を持たせたい」という思いの間で揺れているケースをよく目にします。

治一郎の考え方は、そのジレンマへのひとつの答えになり得ます。
「ここだけは守る、それ以外は任せる」という軸を持つこと。
その軸がブランドコアであり、ロゴマークであり、言葉です。

もうひとつ印象的なのは、ブランド名に職人の名を冠したことです。

技術への敬意を、ブランド名という最も目立つ場所に置きました。
「治一郎のバウムクーヘン」という名前を聞くだけで、
誰か一人の職人が情熱を注いで作ったという物語が伝わってきます。
名前ひとつで、そのブランドが何を大切にしているかを語ることができるのです。

ブランド名には、どんな意志や敬意が込められていますか。
あなたの会社ではどうですか?

出典

みつける つくる そだてる
お客様に選ばれ、愛され続けるブランドづくりの方程式。

・ブランドって何?

・マーケティングとどう違うの?

・デザイン会社って何をしてくれるの?

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この記事を書いた人

早野 悠

Hayano Yu

株式会社スタジオグラム 代表取締役
ブランドマネージャー認定協会トレーナー

コミュニケーションノイズを無くし、争いのない社会を目指してブランディングに取り組んでいます。福岡市を拠点に、3ステップでつくるブランディング×マーケティング手法で述べ60社をお手伝いしてきました。

好きな言葉:知足/縁起 
好きなこと:国内海外旅行/写真/温泉/散歩

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