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コメダ珈琲:「くつろぐ」を丸ごとデザインした、名古屋発ブランドの哲学

Brand Design lab.

ブランドデザイン研究所

コメダ珈琲:「くつろぐ」を丸ごとデザインした、名古屋発ブランドの哲学

Type Something

2026/6/26

こんにちは、スタジオグラムです。

コーヒーを1杯頼んだだけなのに、気づけば2時間が経っていた。
コメダ珈琲店で、そんな経験をした方が多いのではないでしょうか。

席が広い、音楽が主張しない、誰も急かさない。
それらをひとつの言葉に集約するなら「くつろぐ、いちばんいいところ」になります。

これはコメダの看板コンセプトですが、単なるキャッチコピーではありません。
今回は名古屋発のこのブランドを、ブランドデザインの視点から一緒に読み解いていきます。
調べていく中で、私たちにとっても多くの学びがありました。

コメダ珈琲 とは?

珈琲所 コメダ珈琲店は、1968年2月に名古屋市西区那古野で誕生した喫茶チェーンです。

創業者は加藤太郎、当時23歳。
実家が米屋だったことに由来し、「コメ屋のタロウ→コメタ→コメダ」
という経緯で店名が生まれました。

正式名称は「珈琲所 コメダ珈琲店」です。「珈琲」という文字が名称に2度登場するのは、
コーヒーの専門家としての誇りを示すためです。「コーヒーにだけは絶対に妥協しない」という姿勢が、名称そのものに込められています。

名古屋は古くから「喫茶文化の街」として知られてきました。
コーヒー1杯でモーニングがつく独自の喫茶習慣が根づいた土壌で、コメダは生まれています。

1970年代にフランチャイズ展開を開始し、2019年6月には全47都道府県への出店を達成。
現在は1,000店を超え、99%がフランチャイズ店という構造でも、どの店舗でも同じ味と空間を体験できる一貫性がこのブランドの大きな特徴です。

ブランドデザインの視点で読み解く

視点1:誰に向けたブランドか

コメダ珈琲の面白さは、ターゲットを「年齢・性別・職業」ではなく
「行動と感情」で定義している点にあります。

「くつろぎたい人」という設定は、一見ぼんやりしているようにも見えます。
しかしこれは意図的な設計です。

朝の出勤前に新聞を広げたいシニアの方。

子ども連れでゆっくり話したいお母さん。

打ち合わせの合間に一息つきたいビジネスパーソン。

友人とだらだら過ごしたい学生。

これらすべてが「くつろぎたい人」という一軸でつながっています。属性で区切らないことで、あらゆる人が「自分のための場所」と感じられる余白が生まれています。

特に注目したいのが「大型駐車場完備」という設計です。
創業者の加藤太郎は「日常のなかで親しんでもらいたい」という思いから、車で来られる大きな喫茶店を早い段階から構想していました。

車で来るということは、家族や友人と連れ立って来る可能性が高い。
「複数人でゆっくり過ごす体験」を、立地の段階から設計に組み込んでいたのです。

この姿勢は、競合チェーンと比較するとより鮮明になります。
スターバックスが「都市部・洗練された空間・個人の時間」を主な軸に置いているのに対し、
コメダは「郊外・温かみ・複数人での長時間滞在」を軸に据えています。

同じコーヒーを提供しながら、ターゲットの感情状態と利用シーンをまったく異なる場所に設定しているのです。

この違いは価格帯の差だけでは説明できません。
広い駐車場、ゆったりした席、大きなテーブル。
物理的な設計のすべてが、「競合とは別の軸でブランドを定義する」という方針に沿っています。

ターゲットを属性ではなく感情で定義したことが、
こうした一貫した設計を可能にしているのです。

私たちが中小企業のブランドコンセプトを整理するとき、
「誰に向けたブランドか」という問いはほぼ必ず出てきます。


そのとき、属性よりも「選ばれる理由」をどこに置くかを考えるほうが、
ブランドの方向性が明確になることがあります。


コメダは「くつろぎ」という感情を軸にすることで、幅広い層に開かれた場をつくり出しました。

視点2:ロゴ・カラー・タイポグラフィ

コメダのビジュアルアイデンティティには、珍しい成り立ちがあります。

店名の書体は、書家・樽本樹邨(たるもと じゅそん)による毛筆です。

樽本は創業者・加藤太郎が書道を学んだ師匠でした。
師匠の筆による温かみのある文字と、黒地にオレンジというコントラストの強い配色が組み合わさり、遠くからでも一目でわかる看板が生まれています。

モダンなサンセリフ体ではなく手書き感のある毛筆体を選んだことが、
「街に溶け込む、生活に近い場所」という印象をつくっています。

ロゴマークの「中世ヨーロッパの紳士がコーヒーを飲む姿」も、
プロのデザイン事務所によるものではありません。

30年以上前、コメダの常連客だったデザイン学校の学生が
「勉強のためにデザインを作らせてほしい」と申し出て誕生したものです。

コメダは公式サイトで、
このロゴを「長年にわたって親しまれてきた、コメダ珈琲店の象徴」として
説明しており、現在も変わらず使用し続けています。

対価を払って発注したデザイナーではなく、
場所への愛着を持つ常連客から生まれたロゴが、
ブランドの核として半世紀以上使われ続けている。

この事実はブランドデザインの本質を考えるうえで、非常に示唆に富む事例です。

外観は全国どの店舗でも、三角屋根とレンガの壁で統一されています。
1,000店を超えるフランチャイズチェーンで視覚的なアイデンティティが
保たれているのは、外観デザインが「コメダらしさ」の最初の接点として
厳密に管理されているからです。

視点3:コンセプト・メッセージ・ブランドアイデンティティ

コメダのブランドアイデンティティは「くつろぐ、いちばんいいところ」というタグラインに集約されています。そしてこのビジョンには、重要な時間軸が加えられています。

コメダが掲げるビジョンは「100年後も"くつろぐ、いちばんいいところ"」です。

コーヒー業界では定期的に新しいトレンドが登場しますが、コメダはそれを追いかけません。

「くつろぎ」という普遍的な価値を守り続けることを選び、
100年後もその軸を変えないと宣言しています。
流行に乗ることでブランドを拡大しようとする戦略とは、
根本的に発想が異なります。

正式名称「珈琲所 コメダ珈琲店」にも、この哲学が表れています。

「珈琲」という文字が2度登場する名称は、「私たちはコーヒーの専門家です」というメッセージを名前そのものでコミュニケーションしています。
名称がブランドのポジションを伝えるコミュニケーション手段になっている好例です。

私たちがクライアントと「ブランドアイデンティティを言語化する」作業をするとき、
最終的に問うのは「10年後も変わらないものは何か」です。

コメダはその答えを「くつろぎ」に求め、すべての意思決定をその軸に照らしてきました。デザインはコミュニケーションの手段です。

コメダにとってはビジュアルも、名称も、空間設計も、
すべてが「くつろぎ」という一語を体現するための手段として位置づけられています。

視点4:顧客接点の設計

コメダが強いブランドである理由のひとつは、
顧客が触れるあらゆる接点が「くつろぎ」に向かって設計されている点です。

空間設計では「木視率」という独自の概念が使われています。
室内で周囲を見渡した際に木材が見える割合のことで、
コメダは全店舗に一定以上の木視率を設けています。

人は木を見ると心理的に安らぐという知見を根拠にした設計です。
漆喰をモチーフにした壁、天井の木材、レンガが組み合わさり、
体感的なゆとりを生み出しています。

家具にも細かな基準があります。
ソファは温かみのある色調で大きめに設計されており、
テーブルは高さと幅にこだわった分厚いつくりです。

隣席との間にはパーティションが入り、
知らない人との視線が交差しにくい環境が整えられています。
「混んでいても落ち着ける」という体験は、こうした設計の積み重ねによって生まれています。

コーヒーの品質管理も顧客接点設計の一部です。
コメダは世界中から厳選した4種類の生豆を7種類に焙煎し、
独自の比率でアフターブレンドするオリジナルレシピを持ちます。

工場での集中抽出・急速冷却によって、フランチャイズオーナーが変わっても
全国で同じ味が提供できる仕組みをつくっています。

「モーニングサービス」も重要な顧客接点です。
コーヒー1杯の料金でトーストや茹で卵がつくこのサービスは、
名古屋の喫茶文化を全国に広めた象徴的な体験です。

「朝の時間をゆっくり過ごす場所」という価値を、商品という形で具体化しています。接客にはマニュアルがなく、地域密着の柔軟な対応を方針としているのも、「街のリビングルーム」らしさを守るための設計です。

看板メニューの「シロノワール」も、コメダの顧客接点設計を語るうえで外せません。熱いデニッシュパンに冷たいソフトクリームという非日常の組み合わせは、食べた人が思わず誰かに話したくなる体験を生み出しています。

口コミで広がるブランド認知のエンジンを、商品そのものに組み込んでいるのです。コメダのメニュー全般に共通するのは、量が多く時間をかけて楽しむ設計であることです。

「食べきるのに時間がかかる」というポーション設計は、「自然と長居する理由」を食事の側から提供しています。空間・家具・コーヒー・食事のすべてが「くつろぎ」という体験に向かって設計されているのです。

このブランドから中小企業が学べること

今回コメダ珈琲の事例を調べていく中で、私たちも改めて気づかされたことがあります。

それは、「ブランドの強さは一貫性から生まれる」というシンプルな事実です。

コメダの看板文字は、プロの制作会社ではなく書道の師匠に頼みました。

ロゴは、発注したデザイナーではなく場所を愛する常連客が描きました。

どちらも、半世紀を超えて使われ続けています。

出発点がどこであれ、「くつろぎ」というコンセプトに沿っていればコメダのブランドになる。
この判断軸の一貫性が、ブランドを強くしたのだと私たちは考えています。

もうひとつ印象的だったのは「追いかけない」という選択です。
コーヒー市場では定期的に新しいトレンドが登場します。

しかしコメダは自分たちのポジションを動かしませんでした。
「流行を追うか、軸を守るか」という問いに対して、コメダは長年にわたって
「軸を守る」と答え続けています。中小企業が直面する
「変えるべきか、守るべきか」という迷いに、ひとつの指針を与えてくれる事例です。

さらに、フランチャイズでも「らしさ」を保てた構造も参考になります。
コーヒーの集中抽出、外観デザインの統一、木視率の基準。
コントロールすべきところは厳密に管理し、接客は地域に委ねる。

「何を統一し、何を手放すか」の設計が明快だったからこそ、
1,000店を超えても一貫したブランド体験が可能になりました。

自社に置き換えると、
「統一すべきことと、担当者の裁量に任せることの線引き」は明確でしょうか。

あなたの会社では、
「何を守り、何を変えてよいか」の判断軸は明確になっていますか?

出典

みつける つくる そだてる
お客様に選ばれ、愛され続けるブランドづくりの方程式。

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この記事を書いた人

早野 悠

Hayano Yu

株式会社スタジオグラム 代表取締役
ブランドマネージャー認定協会トレーナー

コミュニケーションノイズを無くし、争いのない社会を目指してブランディングに取り組んでいます。福岡市を拠点に、3ステップでつくるブランディング×マーケティング手法で述べ60社をお手伝いしてきました。

好きな言葉:知足/縁起 
好きなこと:国内海外旅行/写真/温泉/散歩

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